一より習ひ

「稽古とは一より習い十を知り、
 十よりかえる元のその一」なのだそう。
 和の世界をマイペースで巡る
 植田伊津子の徒然記です。

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『亀屋伊織の仕事』山田和市著(淡交社刊)

和菓子が洋菓子と同じようにスポット浴びているのを、うれしく思っている私である。

お団子、餡玉、羊羹……といった昔から見慣れた和菓子も健在。和に洋のニュアンスを加えた創作和菓子も楽しい。デパ地下をぐるりと巡ると、和菓子の多様な姿に眼を見張ることになる。

雑誌では、お取り寄せできる全国各地の和菓子特集がひっきりなしに組まれるし、創作和菓子のレシピ集も多数出版。
和菓子を製作するいろんな方たちが、自作品をネットで展示し、販売の糸口にされているのを見かけることも増えた。
わが家にある和菓子関連本を数えてもきりがない。何冊あるだろうか。

今日は、最近本棚に加わった和菓子の本の話。(またまた本の話ですみません)

といっても、おやつにいただくような和菓子を取り上げたものではない。茶席で薄茶を服するときに供される「干菓子」が題材である。

干菓子とは、きんとんや薯蕷饅頭などの「生菓子」(茶席では主に濃茶に供されるもの)に対しての、乾いた和菓子を指す。
具体的にいうと、餅米の粉に砂糖を加えて型押しする「押物(おしもの)」や「煎餅」、蜜を煮詰めてかたちづくる「有平糖(ありへいとう)」、砂糖を寒梅粉(かんばいこ)で繋いで練った「生砂糖(きざとう)」などである。
生菓子(茶席では「主菓子(おもがし)」ともいう)は鉢に盛られることが多いけれど、
これらは乾いているか半生なので、縁の浅い木製の盆などに盛って、客前に出されるものである。



『亀屋伊織の仕事 相変わりませずの菓子』は、京都の二条通沿いに店を構える亀屋伊織の若主人、山田和市さんの初著作。亀屋伊織は、茶の湯の世界では有名な干菓子専門の菓子舗で、約400年の歴史があると伝えられている。現当主は和市さんのお父さん。17代目なのだそうだ。

亀屋伊織がつくる干菓子は、この世界では一頭地を抜いているとの高い評判を得ている。それは表千家・裏千家・武者小路千家の毎年の初釜をはじめ、他の重要な茶会でも、常にこちらの干菓子が使用されていることからもうかがいしるだろう。

本書は、裏千家の機関誌
『淡交』で連載していた文章に、豊富なカラー図版を加えて一冊にまとめたもの。わたくしは、一昨年だったかの連載中も、毎月待ち遠しい気持ちで読んでいたのだ。

というのも、つねづね「なぜ、亀屋伊織の干菓子は、独特の『茶趣』があるのだろう? どうして茶人が使いたくなる干菓子なのだろう?」と思っていたのである。たとえば、こんな文章を読むと、その秘密が少しわかるような気がする。

……お茶会のメインは濃茶です。この一碗のお茶をふるまうためにお客様を招き、おもてなしをするのですから、亭主は慎重にお点前をいたします。客の方もまた、この一碗をいただくために呼ばれて来ているのですから、亭主の一挙一動を見守り、お茶の練りあがるのを待ちます。主客とも大変な緊張のなかでいただくのが濃茶です。
 一方、薄茶は、濃茶をいただいた後に「どうぞお楽に」という気分でふるまわれます。薄茶席では煙草盆が用意され、時季よっては座布団がすすめられます。そうしてここで、干菓子を盛った器が運ばれてまいります。薄茶の場合、二服三服おすすめする意味から、干菓子は二種三種取り合わせて、少し多いめに盛るといいます。
 このように気楽な気分に供されるお菓子ですので、あまり肩肘張ったものよりは、ホンワカとやわらかく、作りすぎず、遊びのあるお菓子、父は「ざんぐり」といった言い方をよくしますが、そういうお菓子の方がふさわしいように思われます。

また、こんな文章にも、わたくしなどはズドンと胸を打ち抜かれてしまう。

……私どもでは、このお菓子のことを芸術作品か何かのように考えたこともございません。ただただお茶席のお菓子としてどうか、そのことをのみ考えて仕事を続けてまいりました。そのためには上手に作ることさえも、否定されることがあるほどです。私どものお菓子が、いわゆるお土産のお菓子と異なる点はこういうところであろうと思っております。箱から直接つまんで召し上がられても何の価値もないお菓子なのでございます。


和市さんは「干菓子とは味ではなく形を食べてもらうものだ」とも述べている。
器に盛ってはじめて100パーセントの力を発揮し、主客の交わりの中で花開く菓子。
茶席の菓子とは何か、について考えさせられる一書にちがいない。


※2回続けて、元いた会社の本を取り上げておりますが、偶然です。よその出版社の本も拝読しております。
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