一より習ひ

「稽古とは一より習い十を知り、
 十よりかえる元のその一」なのだそう。
 和の世界をマイペースで巡る
 植田伊津子の徒然記です。

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絽ちりめん

あっというまに、またもや時間が過ぎている。
もう8月も末である。今年の夏は、なにかと忙しかったせいで夏休みをとりそびれた。仕事漬けの2ヶ月は少し寂しい。

昨日は、お茶のお仲間有志による花月の勉強会であった。今月はわがお稽古場のお茶のお稽古は夏休みなので、久しぶりにきものを着る。

ちょうど先週末、きものに詳しいフリー編集者の田中敦子さんと四方山話をしていたときに、わたしはこんなことをつぶやいていた。

「じつは、週末に花月の勉強会があるのできものを着るんですが、やっぱり絽でしょうかね。お盆以後のきものって気持ち的に秋に傾いてくるから、セオリー通りといえども絽は夏物という感じがすごくするので……。かといってわたしは絽以外のきものがありませんから、絽を着るしかないんですが……」

そうしたところ田中さんが
「たとえば、絽は絽でも『絽ちりめん』があれば、ちょうどいいと思うんだけど……」とおっしゃった。わたしは「そうだわ! まさしくそのとおり」と膝を打つ思いがした。



絽ちりめんは絽ではあるけれど、ちりめんのシボのディテールが、夏のはじまりや終わりの冷え冷えとした清涼を補う質感だから、夏の盛りの前後に重宝する。ちょうど今回のような夏の終わりのお出かけに着るには最適だった。

けれど、夏のきものというものは、そうそうたくさん持てない人も多い。わたくしもその1人である。なぜならば、袷ほど活用する機会が少ないからだろう。
この暑さでは、よほどのことがなければ、洋服ですましたいと思ってしまう。近年の夏の気温は、そろそろガタがきはじめている年代には辛く、汗が噴き出る中、きもので外出するには決死の覚悟がいるからだ。

それに夏物に一度でも袖を通したら、汗ジミにならないように、かならずシーズンの終わりにお手入れに出す必要がある。
そのため、わたくしの場合「今年はこれを着よう」と決めたら、その1、2枚を交互に着るぐらいのバリエーションでやりくりをする。そうでなければ、悉皆代で身が保たない。

いろんな理由が重なって、夏のきものは袷より枚数が要らないことになる。
比較的きものを着る機会の多いわたくしでさえもそうなのだから、たいがいの人の夏のタレ物といえば絽か紗の選択をしているだろう(種類が多い夏の織りのきものは、ちょっと横に話を置いておく)。

「絽ちりめんは真夏でも着られますよ」と呉服屋さんが勧めることがあるけれど、現実的に灼熱の太陽のもとで着る絽ちりめんは、自分はよくたって、他人からは一般的な絽よりも暑苦しそうに見えるかもしれない。
ま、他人のためにきものを着るわけではない、という人もおられようが、他人から見て涼しそうに見えるのも、夏のきものの重要な着こなしのポイントでもある。

長年、絽ちりめんのきものがほしいなあ、と思いつつも、わたくしは自分の使用頻度を考えると、まだ手を出しかねてつくっていない。だから、結局昨日の勉強会には、ふつうの絽の付下げ小紋で出掛けたのであった。

そうしたら、参加メンバーのひとりKさんが、絽ちりめんの無地のきものでいらしていた。
田中さんが指摘したとおり、この素材は風が通る気配がしながら適度な重量感があって、朝晩に新涼を覚える季節にはじつに「しっくり」くる。

ついKさんに「絽ちりめんのおきもの、とても感じがいいですね」と声をかけた。とくに無地は、ザラっとした細やかなシボの質感が少し離れていても、柄がないぶん目立つのだ。
わたしもケチってないでつくろうか……と、絽ちりめんの効果を再確認した日。

さて、花月の勉強会については、また明日にします。
そろそろ9月になりますので、気持ちを入れ替えてブログを更新したいと思います(*^_^*)。




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「いまどきの盛装きもの」展・シルクラブ

しばらくぶりのきものの展示会の仕事。「いまどきの『盛装きもの』展」である。
結婚式や気軽なレストランウエディング、式典、何かの節目などのときに着る現代的なきものの装いを特集したのが本展。この企画にかかわらせてもらった。


こういう時節に……と思う方もおいでかもしれないけれど、明るくて品のよい美しい色や柄のきものは、沈みがちな空気を一変させる。主催のシルクラブも「美しいものを見ていただくことで、皆さんの胸に少しでも灯りをともしたい」という気持ちで、この準備を進めていた。その思いにわたくしも共感する。

今回の目玉といえば、美智子皇后陛下をはじめ皇族方お好みのきものを多く手がけるという京都の『京正』の訪問着や付下げを多数用意しているところ。その数約50点。


こちらの商品は、写真では充分に魅力が伝わらない。あまりに繊細すぎる色・柄なのである。だからこうして写真でアップするのがもどかしい……。
波文様の波頭に金で刺繍をつけた付下げ。きものに仕立てると、まさしく訪問着の印象である。波文様の絵羽は、定番中の定番模様で、今も長く愛されているけれど、じつは波模様に出来不出来があるものだ。こちらの波の線は、のびやかなラインに勢いがあって、高い技術の糊目だとひと目でわかる。


素敵なチョコレート色の付下げ。この丸文の中に記された線の細さは驚愕ものである。それに、複雑なこの色には、青も赤もすべてを溶かし込んだ深みがある。


準備をしているときに、違う製造卸メーカーの営業担当の方とこんな会話を交わしたことがあった。

「今回は、京正さんの商品を多く並べられるんですね」
「ええ。こちらの商品はほんとうに素敵です。高度な友禅技術や刺繍で表された洗練の柄は小付け(柄が小さいこと)で品がよいですし、地色が清澄で落ち着きもある。卵色ひとつにしても、ただのぼやけた卵色じゃなくて、日本人に合うように絶妙にバランス配合されています。これはきっと引染なんでしょうね。こんな繊細な地色は、焚き染めじゃ出せないわ」
「京正さんの商品は、柄が少ないけれど、凝ってるんですよね。柄が多いよりも少ない反物をつくるほうが難しいといいます。『ここしかない』という場所に、力を集中して柄をつける。それも「つくり過ぎない」柄を、それとわからないような技術で。だから凝っていて飽きない。そういうきものは帯を生かせるものです」
「そうですね、まったく。このきものには、かならず力のある帯を合わせたくなりますよね。このきものたちを「優れたキャンパス」といったら、値段からして失礼に当たっちゃいますけれど。なるほど皇族の方たちをはじめ、多くのファンがいるのも納得ですね」

こちらの商品を、これほど比較して見られる機会は珍しいだろう。というのも、京正は、数をたくさんつくる製造卸メーカーさんではないのだ。無地場の多いきものの中では、日本トップクラスのクオリティーを誇るメーカーさんの作品をぜひご覧いただきたい。

さてさて、見るからに盛装、といったのきものが、じつはわたしは大好きである。
しかし、わたくしが実際結婚式やそういうハレの場に出掛けるとき、最近は重い柄の訪問着やこれでもかと金銀を施した重い袋帯などを使わなくなってきた。
そうした装いは浮くのである。とくに東京では。
なるべくシックに、けれど華やかに。そして最重要課題は「品よく」。

こういうきものは値段が高いことが多いから、元もとりたい。
ハレのいろんな場で、幅広く着られるような柄付けされたものだと助かるのである。だから、「つくり過ぎない」というニュアンスが大切な事項でもある。
そういうきものの「いまどき」のおしゃれはおもしろい。「ひねり」を効かせることができるからだ。


おもしろい力帯の中の一本。金銀糸を緯糸に埋め込んであり、光線で微妙に照りが生まれている。柘榴文様が、なんという大胆さ。


どんなきものにも合いそうな丸文橘唐草文様の袋帯。アイスシャーベットのような地色。


ふんわりとした唐織鳳凰紋の袋帯。地色はベージュで、文様は白一色、縁取りが金というシンプルな配色だ。今展は使い勝手のよい、あっさりとした白系の袋帯を多めに用意している。


光琳松をダイナミックにアレンジした透け感のある袋帯。透け感はあるが、オールシーズン使用できる優れもの。
はじめわたくしは、この袋帯にじつはあんまりそそられなかったのだが、昨日の展示会初日、いろいろなお客さまに仮当てして拝見していたところ、とても面白いなと認識を一変した。
大きな柄なので、お腹やお太鼓では、これらの一部分しか表れない。そうすると、なんだかよくわからないけれど抽象アートみたいな表現になった。締めると、マジックのように印象が豹変する帯だ。


古代染織染の第一人者、前田雨城さんの色無地も会場に並べている。こちらの色無地は訪問着のようなコクがある(訪問着と同等のお値段でもあるわけだけれど)。


お天気予報を見れば、お出かけによさそうな足許である。
よろしければ、気分転換に美しいものを見ていただければと思っている。
わたくしも明日は確実に終日在廊(他の日もいたりしますが、確実ではありません)。何か直接ご相談事があるならば、メールで予定をお確かめください。また会場では気軽にお声をかけてください。


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「いまどきの盛装きもの」展
〜軽めの装いが役立ちます〜


会場 
シルクラブ
   東京都中野区沼袋2-30-4
会期 2011年5月13日(金)〜19日(木)
時間 11時〜16時(会期中無休)




※付下げ訪問着は30万円台後半〜。唐織の軽めのなごや帯は10万円ぐらい〜。袋帯の中心価格帯は40万円台。
※震災の一助になればと、東北のお酒と御菓子が来場者にふるまわれる。昨日は、おなじみのお客さまが夕刻からギャラリー横のフリースペースで、ゆっくりお酒を嗜まれていた。とても楽しそうでしたよ!
※同期間に勝水貴一さんの作品展も。勝水さんは北海道の木工作家。魅力的な板皿と椅子の数々が並んでいる。

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みすや忠兵衛の指ぬき・吉祥寺 つみ草

久しぶりに裁縫ネタをひとつ。

きものの半衿つけ。先日も最後の最後の段階で、気が焦ったせいか「イタっ」と指先を刺した。衿にプクリと血が付着する。洗ったばかりなのにー(涙)。幾度、半衿つけを失敗しているだろう。枚挙にいとまがない。

というわけで、指ぬきである。
わたくしは、きものの半衿つけをするまで指ぬきを使った経験がなかったが、あまりに流血するので、これを用いるようになった。そして、使いやすい指ぬきをもとめて、和裁のプロが使用するという指皮や金属のものをいくつも買って試している。

指ぬきが上手に使えれば、堅い衿芯もそれで針の頭を押せる。しかし、今もってわたくしは、悲しいことにうまく使いこなせてないような気がするのだ。だから、使っているのにもかかわらず、失敗する。

そうしたところ、近所の吉祥寺の雑貨屋・つみ草で、京都のみすや忠兵衛の新商品の指ぬきを発見。




つみ草は、日本各地の手仕事にこだわる職人や作家たちの生活道具を扱っているお店で、吉祥寺の南口、末広通り商店街のはずれにある。

前を通りかかると、寄らずにはいられない不思議な雰囲気があって、毎回というぐらい店内をのぞいてしまう。そうしたら、めずらしく、みすや忠兵衛の商品がいくつか置いてあった。

「東京で、みすや忠兵衛さんの商品を常設に置いているのって、珍しいような気がします」
と、思わず店の人に声をかけた。

「(あれ、この人、みすや針のことを知っているのかな……という顔をしながら)そうなんですよ。うちの奥さんの実家の近くにこちらの本店があって、最近ここの商品を少し置きはじめたところなんです」
「……この指ぬき……あまり見たことがないタイプですが(↓下写真)、新商品ですか?」
「(なんで、こんなに指ぬきのことばかり聞くのだろう?という顔をしながら……)パッチワーク用らしいです。牛革の指サックの中に金属の押さえが入ったつくりですね」


わたくしがいただいたのはアメリカ国旗が印刷している指ぬき。1050円だったと思う。他にも、6、7種類、違う柄のものがあった。

持っていないタイプの指ぬきを見つけたら、買ってみる派のわたくし。指ぬき凝り性とでも言ったほうがよいかもしれない。使いやすそうだな、と早速購入。
そうしたら、ご主人がお試し用針をおまけにくださった。

さて、この指ぬきこそ、わたくしの最後の指ぬきとなるか。さっそく使ってみなくっちゃ。


店内には、針そのものの他に、みすや忠兵衛HPのネットショップではすでに売切となっている「おでかけ揃い」という携帯裁縫セットが売られていた。

柄ちりめんのがま口の中に、三ノ五(木綿針)、ほつれのん(「ほつれのん」については、以前に三条本家みすや針のほうだけれど、
こんな記事を書いたことがある)、握り鋏、糸巻き、糸とおし、針山などが入っている。写真手前のコロンとした黄緑色のものが、梅形のちりめん製針山。
携帯用なのに、こんなきちんとした針山がついているのがうれしい。1セット2625円。

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つみ草

住所  東京都武蔵野市吉祥寺南町2-20-3 吉祥寺フラット1F
電話  0422-24-9585
時間  平日12時〜20時 土日祝日11時〜20時
定休日 水曜日

【おまけ】

同じく吉祥寺のmist∞も大好きなお店で、出かけたら必ず寄ってしまう。今日の戦利品は、上写真の小さな洗濯板。長年探していたのを、やっとここで見つけたー。


mist∞の外観。

足袋を洗うのに、小さな洗濯板が欲しいとずっと探していたのである。一足用のもう少し小さなものとコレ……どちらにしようか迷ったが、わたくしは洗う足袋の数が多いから大きめサイズのほうにした。ホクホク(^_^)。

mist∞店内のガラスケースの中にいつもある「
ことり焼菓子店」のビスケットは、ホームメイドの懐かしい味だ。


前にこれを食べた息子が「あれ、お母さん。今日クッキー焼いたの?」と、わたくしがつくったと勘違いしてくれたほど。だましてすまない。



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祇粋(きっすい)秋展、終了

京都の染めもの業専門・祇粋(きっすい)さんの秋展、本日終了(銀座・石川画廊)。


DM用に撮影した扇面に松竹梅文染帯と訪問着。染め帯は、この絵の密度で18万円! お太鼓と前腹にたっぷりと贅沢に友禅と刺繍がほどこしてあって、ぱっと見、30万円近くの値段に錯覚する帯だと思う。

春展に引き続いて、今回もお手伝いをさせてもらった。
遠方よりお越しの方々、前回の展示会詳細を記した
当方のブログを見てすぐに電話で問い合わせをして本展を心待ちにされていた方、通りすがりの方、青年部のお知り合い、お稽古場の相弟子さんたち……なんと、故郷の同級生や宗偏流茶道を嗜んでいる又従兄弟のミーちゃんまで顔を見せてくれた。
皆さま、ありがとうございます。




今回は色無地をあつらえでつくりたいお客さまのために、多めの白生地(話題の高級生地・新小石丸をはじめ、好きな色に染めて8万5千円というバランスのよいものまで)を用意していた。
期間中、あつらえにともなう楽しい苦悩に面した方々の決断の現場に立ち会う。

どの方も、おあつらえでしか味わえないおもしろい色無地ができあがると思う。そりゃ、わたくしが横について納得されるまでアレコレ相談に乗るわけだから、絶対大丈夫、のはずです!

そして、春・秋に活躍する紗ゴートや、盛夏のきものをつくることができる紗の白生地も素敵なタイプがそろっていた。
祇粋さんは紗の地紋選びに芸があって、他ではあまり見かけない珍しいものを白生地屋さんから探し出す才能がある。と、わたくしは思っている。
こちらが染める紗の着尺は、大手の百貨店も扱うヒット商品なのだ。

それを、無地の1色染めや2色ぼかし、絵羽染めなど、これまたオーダーで好きな色に染めてもらえる絶好の機会だった。染め上がりで9万7千円〜という魅力的なプライスである。

北村武資さんっぽい!紗や、市松、横段、牡丹唐草など、新柄10種類がそろっていて、「どーしよう、これも捨てがたい……」と、紗の地紋、染め色について着尺に穴が空くほど検討するお客さまの横顔は、真剣そのもの。でも、あつらえの醍醐味はそこにあるのだ。

紗といっても透け感の少ないものなら、3〜5月、9月末〜11月初旬にかけて、1年の半分ぐらいわたくしなどは袖を通したりする。とくに温暖化の進む最近は、単衣(紗)コートの出番が多いのである。
塵除けがわりに、これで紗羽織をつくっても楽しいだろうなあ。

来年の企画展の予定はまだ未定。
お問い合わせは、祇粋(電話 075-922-0626)まで。お電話をいただいた方には、展覧会を催すとき(不定期)にご案内を差し上げるとのこと(こちらは実店舗をかまえていません)。


貝桶柄の訪問着。やや控えめなはんなり加減なので、帯を目立たせるだろう。


梅文様の付下げ小紋。灰桜+ベビーピンクの大ぼかしの梅が梅柄の地紋にほどこしてある上に、仕立てたときに絵羽付けに見えるよう、ところどころに刺した梅の刺繍も愛らしい。


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小宮康孝 江戸小紋展・シルクラブ

 わたくしが18歳のとき、一番最初につくってもらったきものは、鮫小紋のきもの。いわゆる江戸小紋である。
お茶席や友人の結婚式、大学の卒業式にも着られる便利なものだから、と母が選んでくれた。

歌舞伎役者の
松本幸四郎夫人、藤間紀子さんのきものエッセイ『私のきもの生活』(文化出版局刊)という本では、型小紋についてこんな風に記してある。
少し長いけれど引用してみよう。


 
……そろそろきもののおしゃれを楽しみたい年代になったのでしょうか、私の友人たちにきものを着てみたいという人が増えました。先日も電話があって「何を買ったらいい?」という話。すぐには答えられなかったのですが、結局、「無地感覚のきものね。型小紋はどうかしら」と答えていました。

 私自身、とても重宝しているのがそうしたきものだからです。帯を合わせやすく、帯によって着こなしの幅が広がり、カジュアルにもフォーマルにもなります。
 どのようにもなるからこそ、その人なりのおしゃれが楽しめ、初心者にも通にも好まれるのでしょう。母もよく「着つくすとまた型小紋」と言っておりました。(中略)

 ……母があられと同じように好きだったのは、縞小紋。離れてみると無地のようにも見える、万筋と呼ばれるごく細い縞模様の小紋の背に縫い紋をつけ、ちょっとした外出からフォーマルまで愛用していました。私も劇場でのごあいさつの折など、大げさにならず、しかもきちんとした印象が出せるので着る機会が多いきものです。

この文章は、その当時の母の言っていた言葉と同じ内容だった。
西陣織のフォーマルな袋帯を締めれば、それなりの格式のある場に。またシャレ袋と呼ばれる遊び心にあふれた軽めの袋帯、染めのなごや帯も、すべて取り合わすことができる許容範囲の広いきものの筆頭が、江戸小紋といってよいだろう。

若かりしころは母の言うままにつくってもらったけれど、今、母や藤間さんの言っている意味がリアルに判る。
色無地より「きさく」に着られもするし、帯を変えれば格も自在にアップできる。帯を楽しめるきもの、それが江戸小紋だ。

さて、現在、沼袋のシルクラブ
(中野山田屋)でおこなわれている「江戸小紋展」は、重要無形文化財保持者(人間国宝)の小宮康孝さんの多種多様な作品を並べる恒例の会。極小の型の中に、お江戸の洒落を凝縮した内容が楽しい。



ところで、江戸小紋のよさは納得しているものの、
わたくし的にはこのきものの弱点も気になる。
何かといえば、長年着用ののちに生ずる色ヤケや汚れ。これはどんなきものでも避けられない現象だ。しかしながら、とくに江戸小紋の繰りまわし方法に、わたくしは数年来うんと頭を悩ませたことがあった。

色無地なら、現在の色よりも濃色に染め替えをするのが常套手段である。しかし江戸小紋は濃色をかけると、型が消えてしまう。いわゆるただの縮緬無地になるわけだ。

小宮さんの江戸小紋のすごいところは、色ヤケや汚れに強い「顔料」で染めているところ。顔料は染料と並ぶ重要な着色料で、水にも油にも溶けない色素である。これは、不透明で直接的な染色性がない。
ということは、生地に着色するには膠着剤が必要となるわけで、一般的な染色方法とは違う工程をとる。

顔料を多用する染色といえば、沖縄の「紅型」染めが代表的だ。紅型の強烈な色彩は顔料を用いるがゆえで、色上がりは皆さんご存じのとおり、鮮明で量感のあるものとなる。

となれば、強力な「顔料」を使う小宮さんの江戸小紋が独特な発色をするのも納得。少し見慣れてくると、「あの方が着ている江戸小紋は、小宮さんのものだ」と、ピンとブランドに気づくほどなのだ。

長く着られる工夫は他にもあるらしい。
型染めの場合、型を置いて糊伏せをして文様をつけたのちに染めるという工程をとるが、こちらの江戸小紋はその糊に若干のグレーを混ぜて、白抜きの部分を完全な「白」にしないのだという。
グレーがかった白は、顔料の強さをおさめて着尺に協調をもたらし、色ヤケや汚れも目立たせない働きをする。

「長持ちしすぎる江戸小紋!」、それが小宮さんがつくるそれの特徴といってよいかもしれない。

今年は帯を楽しむというテーマで、西陣の産地問屋・帛撰
や織り帯の老舗・川島織物、友禅作家の犬飼千賀子さん、ろうけつ染め作家の三谷奈可子さんたちの作品が種々多彩に展示即売されている。

あまり東京で見かけることのない「ひとひねり」の趣きの帯ばかり。
カッコよく江戸小紋を着たい、と考えておいでの方は、ぜひ足を運んで損はないと思う。

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重要無形文化財保持者[人間国宝]小宮康孝
江戸小紋展
〜江戸小紋に合わせる帯色々〜


会期  2010年10月15日(金)〜10月21日(木)
場所  
シルクラブ 中野山田屋
    東京都中野区沼袋2-30-4
電話  03-3389-4301
時間  11時〜18時 会期中無休

※江戸小紋の貴重なフィルム「美を極める」「日本が誇る匠の技〜小宮康孝」上映会が、毎日14時よりおこなわれています。(入場無料)


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足袋と草履

先月、京都の誂え足袋の専門店、植田貞之助商店さんに注文していた足袋が届く。うつくしや。足袋については、前にこんな記事を書いた。




箱には毛筆で名前が記されている。1足ずつが「満る吉足袋」と印刷された紙袋に入っている。1足5500円(税別)で6足セットから。


わたくしは植田さんに出会うまで、ただ漫然と足袋に足を入れてコハゼを留めていたのだが、いっとう最初にこちらで採寸してもらったときに、「どんなふうに履いておられます?」と尋ねられ、正しい足袋の履き方について伝授された(こちら)

足袋は、靴下のように収縮性にすぐれたものではない。ということは、足を「足袋の形におさめるように」して履くのがポイントなのだと教わった。
その通りに履くと、甲や指にシワができず、かかとが定位置に安定し、底面に向かってきれいに布がまわった惚れ惚れとした足袋姿になる。プロの教えはさすがなのだ。


足許つながりでもうひとつ。
一昨日、松屋銀座に一緒に出かけたSさんの履物を見て、「おもしろいわねえ! ちょっと写真を撮らせてもらえないかなあ」と雨草履を撮影させてもらった。






これは銀座のぜん屋さんのものだという。透明爪革がマジックテープで着脱できるタイプなのだ。彼女は晴雨兼用草履(雨が底から入らないように加工してあるもの。見た目はふつうの晴れ用草履)にこの爪革カバーを着けていた。

カバーの前ツボのところに穴が空いていて、草履の台の表面にこのカバーがのるかたちになる。草履を履かないとマジックテープが見えてしまうが、草履を履いたら足袋の下にカバーが隠れてしまうので問題ない。

わたくしは、爪革が草履にくっついているタイプの雨草履を使っているけれど、これなら軽い雨の日にに対応できるし、途中で雨があがったら爪革カバーを取り外すことも可能。じつに便利そうな一品です。

JUGEMテーマ:着物 きもの



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祇粋春衣展終わる

祇粋展、終了。3日間立ちっぱなしだったので、少しはほっそりしただろうか。

今年はなぜかきものがらみの仕事が年初から続いていて、「重なるものだなあ」と不思議に思っていたのだけれど、やっと少し肩の荷が下ろせる。
お客さまとお話しをするのはきらいではないと思うが、ひとりひとりの状況をじっくりと聞きたいわたくしは、あわただしい展示会は少々落ち着かない。

わたくしが得意とするお茶のきもののご相談に関しても、その方ごとのシチュエーションは微妙に違うし、流派ごとの紋の表し方の傾向や、師事される先生の社中に対するきもののお好み(先生によってお茶のきものに対する考え方に温度差がある。生徒は師の影響を受けるもの)、研究会のきものひとつをとっても地方と東京とでは相違があるわけで、茶会のきものといっても、「織りなごやは茶事には使わないでしょ」とか「染め帯はお茶会に使わないでしょ」と単純に割り切れない。

お茶のきものは、洒落着の世界にはないおしゃれが存在する。いわば協調的なおしゃれといえるかもしれない。
わたくしのところへ相談にこられる人は、その世界の約束事に不安を抱えたり、お茶会やお茶事、日々のお稽古のきものの現状を知りたくてお越しになっているわけだから、個別にきちんとお話を聞きたい。その上で、そういう方々のお役に立てたらうれしいな、と思っている。

本展は商品の準備に行き違いがあって、いろいろ反省点の多い展示会だった。とりあえずお越しくださいました皆さま、ありがとうございました。


※4月11日付けブログを見て、お問い合わせが多かった変わり生地(紋紗)。ブログでは、合いの時期には透け感のある上着(道行・道中着・紗羽織)が重宝するが、なかなかよい生地が見つけられないと書いた。写真がわかりにくいとのことだったので、参考までにもう一度掲載↓。

黄色とグレーの2色ぼかし。12万8000円。草が揺らいでいるような透かし。無地1色染めならば8万円〜。


薄プラム・グレー・落ち着いた萌黄の3色ぼかし。12万8000円。


ギンガムチェックのような紋紗に若草色の地色。白の手描きストライプに丸点の柄付けである。12万8000円。
上記3点とも本来は薄物(7・8月)の長着用の着尺。それを上着に仕立てるのは、どちらかといえば贅沢な作り方といえる。


こんな染め帯も出ていました。辻が花模様を型染めしたちりめん。柄がたっぷりとついているので、どこをお太鼓に出しても楽しみである。たとえば織物の大島や結城に合わせたら、シックでやわらかな感じに着られる。季節に関係なく締められる帯は重宝だろう。10万5000円。


大胆な細長市松小紋(18万5000円)と気球柄の染め帯(14万8000円)。シャレもの同士の組み合わせである。細長市松は長羽織にして、無地感覚の織りのきものにのせる手もある。それじゃあもったいないぐらいのよい着尺なのですが……。


ガラス細工の結晶のような抽象飾り柄を飛ばした無地場の多い小紋(12万8000円)。ちょっとした気の張る場所でも使えそうなドレス感覚のきもの。格調のある織り帯から写真のような軽いシャレのなごや帯まで、いろんなタイプを受け止められる。茶会などに使っても気が利いている。


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祇粋春衣展2日目

今日は一日雨。足許が悪かったのでお客さまは数えるほど。そのかわり、ひとりひとりとゆっくりお話をさせていただいた。

四国からおいでになった方や『婦人画報』→「一より習ひ」のブログを調べ、商品取り置きの電話をくだった方、そして「きものBASICルール」の樺澤嬢など、コア系のお客さまが目立つ。皆さま、ありがとうございます。

明日はお天気に恵まれそうな最終日。もうかなりヘロヘロです。
これで、わたくしのきものの仕事は一段落。
以後しばらくは、他のお仕事で内にこもる予定になっておりますので、実際に顔を見て相談したいと思われている方は、会場をのぞいてみてくださいね。はい。





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祇粋春衣展スタート

お天気に恵まれた本日、先日ブログでも告知した祇粋(きっすい)個展初日を迎える。




今日の東京は最高気温が23度という汗ばむ陽気。皆さんはどのように過ごされたのだろうか。

こちらははじめの出だしは遅かったのだけれど、おやつの時間頃から閉廊時間にかけてにぎわって、ギャラリーにお願いして1時間の延長になった。

このブログの大津在住の読者の方が「歌舞伎座公演を見るついでに寄りたくて……」とブログのページを印刷してギャラリーを探してのぞいてくださったのは、とてもうれしい出来事だったし、また青年部のHさんなども「お茶会の帰りに植田さんの顔を見ようと思って」と立ち寄ってくれた。

皆さま、ありがとうございます(^_^)。

明日はあいにく雨模様とのことだけれど、ご都合が合うようなら、おでかけくださいませ。


今日、好評だったのは単衣ゴート(下の右の2点)。草花文や市松、変わり立涌などの変わり紗風の生地にぼかし加工をしたり、もえぎ色やベージュの落ち着いた小紋柄をつけている。

4月も初旬を過ぎると、もう袷の上着では暑くてかなわない。袷と薄物(7・8月)の合いの季節に着るのが単衣仕立てのコートで、最近は気候の温暖化によってだんだんこれの着用期間が長くなっていると思う。わたくしなどは1年のうちの5ヶ月(4〜6月、9・10月)は単衣ゴートだ。

さて、呉服屋さんで、単衣ゴートの感じのよいものを見つけるのはかなりむずかしいのではないか。いかにもデコラティブなレースではなく、暖色系寒色系のきものにものり、スケの地紋がおもしろく、全体としてシャレ感に富んでいるもの……。

祇粋はこの単衣ゴートが得意なところ。今日ご注文になった方は、ぼかしなどの加工なしで、変わり生地にお似合いの色を1色で染めることになった。無地染めならば、お値段も魅力的になる。
慎重に顔映りを見て、その1色を選ぶお手伝いをする。単衣ゴートは、道中着タイプにしてもいいし、長羽織ならかなりかっこいい。ベーシックな色の上着に羽織紐で色を効かせる着こなしもできる。できあがったら素敵だろうなー。



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祇粋・東京初個展

 東京を抜け出して北のほうに遠出。といってもプライベートではない。お仕事でした。

駅に向かう道中、ぬくぬくとした風が頬を撫でる。
昼寝でもしたらさぞ素晴らしかろうというような陽気である。「春眠暁を覚えず、処処啼鳥を聞く」とはこういう日のこと。春の眠りはだれにも心地よい。
でも今週のわたくしは、猛スピードであちこちへ出歩かねばならない。一時もうたたねをしている暇がないのである。5月半ばになれば山を越えるだろうか。

さて帰り道に書店に寄って、
やっと今月号の『婦人画報』を購入。じつは今週末に催されるきものの展示会、祇粋(きっすい)春衣展のインフォメーションが今号に載っているのである。

祇粋は京都の染専門業者さんで、今回わたくしが東京での初個展のお手伝いをすることに。展示会場の選定、商品のコーディネート全般を任せてもらえた。それは、わたくしにとってもエキサイティングな作業だった。祇粋さん、ありがとうございます。

昨年よりいろんな作品を見せてもらってきて、ほんとうに思いがけない出来事もあったのだけれど、ようやく今週末の開催を迎える。

こちらの商品は、甘辛コーディネートを助ける絶妙なセンスで、有名デパートや専門店を通して、25年にわたって関東圏のお客さまに愛されてきた。
けれど、エンドユーザーのお客さまに、これだけの数のオリジナルの染めものを見ていただく機会は今回がはじめて。作り手側は期待と不安が半分ずつ。いや、たぶん不安のほうがずっと大きいだろう。


黒地草花文唐草の塩瀬帯。季節を問わずに使えるので、便利なこと間違いなし。

ここが手がけるものは、引き立て上手なきものといってよいかもしれない。主役を張れるタイプのきものは、印象が強いためにコーディネートに頭を悩ますことも多いけれど、そんなときこそ「ちょいユル」路線。
一見「物足りない」ぐらいのあっさりしたものが大役立ちするのは、よくきものを着ている人ほど実感している事実だと思う。今回はそんなきものが並びます。はい。


二つ輪違い文の小紋(下)と縞文(上)。ほんのりソフトな気配が、帯も引き立てるし、着る人間も引き立てる。

期間中わたくしもずっと会場に常駐している。こんなに長時間、会場にいるのはめずらしい。だからきっとお客さまとゆっくりお話ができるのではないかと思っている。
陣中見舞い大歓迎! よろしければのぞいてみてください。

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祇粋  春衣展
ーわたしを引き立たせてくれるさりげないきものー

期間  4月11日(日)12時〜18時
        12日(月)10時30分〜18時
        13日(火)10時30分〜17時
場所 石川画廊
   東京都中央区銀座7丁目108番地先
電話 03-3571-6571

※祇粋が提案するのは、空気感を漂わせるきもの。ベビーピンク、クリームグレーなど、繊細かつ上品なチャーミングカラーを吟味して染めています。『帯が合わせやすい』『大げさに見えない』……お出かけに最適なおしゃれ小紋や付下げをはじめ、ヘビーローテーション入りが確実な塩瀬の染め帯など、新作を中心とした約100点近くの作品を一挙公開。



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